『健康なからだ』『意志の力』『想像の力』

幼児期のこどもにとって最も大切なことは、『健やかな身体』を作ることです。幼児期のこどもは、からだ全体が感覚器となっています。見たもの、聞いたもの、触れたもの、それらすべてからじかに影響を受けます。シュタイナーの人間観では、人間には全部で12の感覚(*1)があると捉えています。12感覚を心地よくフル稼働させることで、脳が活性化します。それは、自分で「考え、感じ、行動する力」の源となる『意志の力』と、自分に確固たる自信が持てる『想像の力』の根幹になります。

(*1) 12感覚とは、触覚、生命感覚、運動感覚、平衡感覚、嗅覚、味覚、視覚、熱感覚、聴覚、言語感覚、思考感覚、自我感覚です。特に0歳から7歳までの乳幼児期は、触覚、生命感覚、運動感覚、平衡感覚を育むことが重要です。

『健康なからだ』を育てるために

幼児期のこどもは、自然の遊びを通して、からだ作りに必要な生命エネルギーを取り込みます。晴れの日は、園庭をあちこち歩いたり、虫をじっくり観察したり、蝶を追いかけたり、たっぷりと外遊びをします。雨の日は、雨音に耳を澄まし、雨の匂いを感じます。

こどもの手が触れるテーブル、椅子、棚、床等は、自然の素材で作ったものを使用します。触覚はこどもにとって原初的な体験であり、触覚を十分に育むことによって自我感覚が養われるからです。

給食やおやつは、旬の野菜を使用したり、添加物の少ないものを選んだりし、本物の味をこどもの舌に伝えます。

『意志の力』を育むために

幼児期のこどもにとって、繰り返しによるリズムのある生活は大切です。リズムによってものごとの流れが習慣化され、こどもは考えずとも体が動くようになります。リズムはこどもを安定させ、意志の力を育てます。こどもが自分の意志で行動するために生活リズムを整えることは不可欠です。

こどもは、自分が見聞きしたものは何でも吸収し模倣します。自分が心を動かされた出来事を何度も再現します。こどもの周囲には、こどもが真似をしてもよい見本があることが望ましく、教師はそうした環境を整えます。それは、大人がこどもに過度に干渉しないという環境です。こどもが好奇心で動き、どうすればよいか工夫するのをそっと見守ることに徹します。これは、こどもの手先の器用さを発達させ、全身のバランスや運動能力を整え、深く物事を見たり考えたりする思考力を育てます。一歩を踏み出す勇気の芽を大切に育てます。

『想像の力』を育てるために

幼児期のこどもは、ファンタジーの世界を生きています。こどもは夢の中でまどろんでいる状態です。この時期のこどもにとって、遊びは真剣な行為であり、遊びを通じてファンタジーの世界に浸り、世界と出会っていきます。身近にある自然の物や素朴なおもちゃは想像力をかきたてます。

想像の力を育てるカリキュラムの一つに、教師が何も見ずに物語を語る『素話』があります。こどもは、繰り返し素話を聞き、想像力豊かに物語に没頭していきます。物語の中の出来事が、こどもの遊びに反映されることもあります。お話を素話ではなかなか想像しにくいこどもも、『人形劇』で実際に人形の動きを見ることで想像の力をつけます。

『ぬらし絵』では、水で濡らした画用紙に透明水彩絵の具と太目の平筆を用いて描きます。赤青黄の三原色を濡らした画用紙に置いていくと、意図しない形に色がどんどん広がり、色と色がぶつかり、様々な色彩が生まれます。こどもは、色彩の世界を全身で感じます。「黄色と青色を混ぜれば緑色になる」と知的に教えることなく、色彩体験を通し、からだ全体で色彩を学びます。

『オイリュトミー』は1912年にシュタイナーが考案した運動芸術です。目に見えない言葉や音楽を、動きを通して目に見える形に表現する芸術です。こどもの成長段階に即したオイリュトミーは、生命力や骨の発達など人間形成の重要な助けとなります。心のこもった動きを通してからだの調和をもたらします。
オイリュトミーで、集団で動くことにより、社会性を育みます。

健康な体と意志の力と想像の力が育つと、豊かな感性とエネルギーに溢れ、自分で考え、感じ、表現する力のある人に育ちます。人の気持ちを理解でき、柔軟な発想で、物事に果敢に挑戦する人に育ちます。幼児期に必要な体の機能や感覚がこのように育まれると、本当にこどもらしい生命力に溢れたこどもになります。

このようなこどもが大人になったら、どんな人に育つのでしょうか。1人ひとりが全く違う性格、趣味、傾向でありながら、お互いにそれを認め合い、話し合い、協力できる人に育ちます。友人と行うためなら自分の時間を使ってでも行動し、大きな事を成し遂げられる人になります。これはできるけれどほかはまるでできないという一面的な能力が突出したエキスパートではなく、バランスのとれた、生活上の多くの側面において活動できる人になります。たとえ未知の分野に対しても、堂々と楽しさを純粋に求めながら物事に取り組み、上達していける人になります。人生を豊かに生き、世界をよりよくしていく力が備わった人になります。楽しむことを忘れずに、人や世界を勇気づけられる人になります。